AI採用ジャーナル
データ・トレンド解説公開 2026年6月24日

採用代行(RPO)の次|「ワークフォース・オーケストレーション」への移行と海外事例

文: 藤澤専之介

この記事の結論

採用代行(RPO)の価値は、人とAIをリアルタイムに編成して成果を出す「ワークフォース・オーケストレーション」へと広がりつつあります。海外ではDeloitteやBersinが2026年の中心テーマに掲げ、RPOはその“入口”として進化します。

採用代行(RPO)の次に来るものは何か

RPO(採用代行)が担ってきた「採用プロセスの効率化」という価値は、いま「人とAIをリアルタイムに編成して成果を出す」という、より上流の役割へ広がりつつあります。 海外ではこれを 「ワークフォース・オーケストレーション(Workforce Orchestration=労働力の編成・指揮)」 と呼び、Deloitteやジョシュ・バーシン(Josh Bersin)らが2026年の中心テーマに掲げています(国内では「労働力設計/WDO」と表現されることもあります)。

問いそのものが変わり始めています。これまでは「何人採るか」「いつまでに採るか」が採用責任者の中心テーマでした。これからは「この事業成果を出すために、人・外部人材・AIエージェントをどう組み合わせ、どの工程を誰(何)に任せるか」が問われます。本記事では、人事・採用責任者がこの変化を実務に落とすために、海外の出典付きの動向と、SilverXが整理した3段階の移行フレームを解説します。

なぜ「採用」から「編成」へ広がるのか

理由は明快で、「労働力」の中にAIエージェントが入ってきたからです。

象徴的なのが、Salesforceのマーク・ベニオフCEOの発言です。2025年1月のダボス会議で、彼は「私たちは、人間だけを労働力として管理する最後の世代のCEOになる(we are the last generation to manage only humans)」と語りました(CNN Business, 2025)。同社が世界の人事責任者200名を対象に実施した調査では、組織内のAIエージェント活用率が現在の15%から2027年には64%へと拡大し、採用(adoption)が2027年までに327%成長すると予測されています(Salesforce, 2025)。

ポイントは、これが「人員削減の話」ではないことです。人を増やすか減らすかの一次元ではなく、人とAIを組み合わせて成果を最大化する設計力が問われ始めた、ということです。採用責任者の仕事は「人を補充する」役割から、「事業に必要なケイパビリティ(能力)をどう構成するか」を設計する役割へと、重心が移っていきます。

海外で起きている3つの動きとは

海外の研究・調査機関が示す方向性は、おおむね次の3つに整理できます。

① 労働力を「エコシステム」として捉える

MITスローン経営大学院とDeloitteの共同研究(書籍『Workforce Ecosystems』MIT Press, 2023)は、社員だけでなく、業務委託・ギグワーカー・パートナー、そしてソフトウェアのボット(AIエージェント)まで含めて「自社の労働力」と捉える考え方を示しています。

このシフトは数字にも表れています。Deloitteの調査では、回答者の87%が外部人材を自社の労働力構成に含めて捉えていると回答しました(Deloitte/MIT SMR, 2021)。一方で、採用・評価・報酬といった人事の仕組みの多くは依然として正社員を前提に設計されており、認識と仕組みのあいだにギャップが残っています。Deloitteはこれからの人事の役割を「人材の“出口”管理から、エコシステムのオーケストレーションへ」と表現しています。

参考:Deloitte「From exits to ecosystems」

② RPOが「トータル・タレント」へ広がる

調査会社Everest Groupは、正社員採用と外部人材の調達を1つの統合プログラムで扱う「トータル・タレント・アクイジション(Total Talent Acquisition)」、そしてRPOとMSP(外部人材マネジメント)を束ねる「ブレンドRPO(Blended RPO)」を主要トレンドに挙げています。ManpowerGroupやRandstad EnterpriseといったRPO大手も、採用代行から「労働力ソリューション」へとサービス領域を広げています。

実務的に言えば、これは「正社員の採用」と「業務委託・派遣などの外部人材調達」を別々の部署・別々のベンダーで回していた状態から、両者を一体の需給計画として運用する動きです。

参考:Everest Group「Total Talent / Blended RPO」

③ 人+AIを「リアルタイムに編成」する

そして最先端が、ワークフォース・オーケストレーションです。Deloitte/Bersinはこれを 「人とAIエージェントが共に、需要を先読みし、能力を形づくり、リアルタイムに資源を配置する」 営みと定義します。HR業務を端から端まで担う“スーパーエージェント”も登場し始めました。

象徴的なのが米Asymblの事例で、同社は約170名の人間と約200体のデジタルワーカー(AIエージェント)が共に働き、生産性の約30%をデジタルレイバーから生み出すことを掲げています(公開情報)。「人を何人雇うか」だけでなく「どの工程をAIエージェントに担わせるか」を同じ俎上で設計している、という点が従来との違いです。

3段階で見ると、RPOはどう進化するのか

ここまでの3つの動きは、価値の重心が外側へ広がっていくプロセスとして捉えると整理しやすくなります。重要なのは、RPOが消えるわけではないという点です。採用代行 → トータル・タレント → オーケストレーションへと、扱う対象と価値が外側に拡張していきます。SilverXは、海外の各研究(Deloitte/Everest/MIT)を踏まえ、この移行を次の3段階で整理しています。

段階価値の中心主に扱う対象採用責任者の問い
採用代行(RPO)採用プロセスの効率化人の採用何人を、いつまでに採るか
トータル・タレント社員+外部人材の一体運用人(社員・外部)正社員と外部のどちらに任せるか
ワークフォース・オーケストレーション人とAIのリアルタイム編成人+AI+外部どの工程を人・AI・外部に配分するか

(出典:Deloitte/Everest Group/MIT Pressの整理をもとにSilverXが再構成)

この3段階は、いずれかが他を置き換えるのではなく、内側の価値を残したまま外側へ積み重なる関係です。採用代行で培った「採用工程を回す力」は、トータル・タレントやオーケストレーションの土台として、むしろ価値を増していきます。

日本企業は何から始めればいいのか

いきなり労働力すべてを編成し直す必要はありません。現実的な第一歩は、次の3ステップです。

  1. 採用工程を棚卸しする:要件定義・母集団形成・書類選考・面接調整・面接・評価・内定後フォローといった工程を書き出し、各工程の所要時間と担当を可視化します。
  2. 「人/AI/外部」の役割を仮置きする:たとえば日程調整や一次的な情報整理はAIや会話型ツールに、面接の合否判断や口説きは人に、繁忙期の母集団形成は外部に——というように、工程ごとに担い手を割り当てます。AI面接・評価ツール(PeopleX、SHaiN、harutakaなど)や採用管理システム(HRMOS採用、HERP Hire、sonar ATSなど)は、いずれも公開情報として国内で利用できる選択肢です。導入時は自社の採用要件と運用体制に合うかを必ず検証してください。
  3. 小さく試して検証する:1つの職種・1つの工程から始め、所要時間や歩留まりの変化を測ってから広げます。SilverXのバリューでいう「最速で試せ(Move Fast & Fail Fast)」の発想です。

このとき外してはいけない原則が、最終判断は人が行うということです。AIエージェントは要件の整理や工程の効率化を担えますが、誰を採るか・誰に何を任せるかという意思決定の責任は人にあります。AIは「裏打ちされた精度の高い判断材料」を提供する役割にとどめ、合否や配分の最終決定は人事・採用責任者が握る——この線を引いたうえで編成を設計することが、信頼を損なわない運用の前提です。

まとめ:RPOは「入口」、オーケストレーションは「インフラ」

RPOは採用の「入口」として残り、ワークフォース・オーケストレーションは「これからのインフラ」になっていきます。「採用する会社」から「事業成果を生む労働力を編成する会社」へ——この移行を、海外の研究・大手プレイヤーはすでに走り始めています。AIエージェントが労働力に加わるいまこそ、採用工程を棚卸しし、人・AI・外部の役割分担を見直す好機です。まずは1工程からの検証で十分です。


✍️
著者:藤澤 専之介(株式会社SilverX 共同創業者 / CAIO)

RPA専業のPeaceful Morningを創業し、2022年にクラウドワークスへM&A。現在はSilverXでAI×採用のRPO事業を率いる。著書『AIエージェント時代の人事の教科書』(Amazonで見る)。

出典・注記:本記事の数値・引用は、Salesforce「Agentic AI Impact on Workforce」調査(2025)、ダボス会議でのマーク・ベニオフCEO発言報道(CNN Business, 2025)、Deloitte/MIT Sloan Management Review「Workforce Ecosystems」研究(MIT Press, 2023/調査2021)、Everest Group(Total Talent/Blended RPO)、およびAsymblの公開情報に基づきます。各社の製品仕様・利用可否は記事公開時点の公開情報であり、導入時は最新情報をご確認ください。

最終更新:2026年6月24日

よくある質問(FAQ)

Q. ワークフォース・オーケストレーションとは?

A. 社員・外部人材・AIエージェントを含む労働力を、リアルタイムに編成・最適化して成果を出す考え方です。DeloitteやBersinが2026年の中心テーマに掲げています。

Q. RPOはなくなる?

A. なくなりません。採用の“入口”として残り、トータル・タレント→オーケストレーションへと役割が広がります。

Q. 日本企業は何から始めればいい?

A. 要件定義と採用工程をAI前提で設計し直し、人/AI/外部の役割分担を決めるのが第一歩です。

この記事の著者

藤澤専之介株式会社SilverX CAIO(最高AI責任者)

AIエージェント×採用の実践者。株式会社SilverXでAI採用の戦略立案とAIエージェント開発を統括。著書『AIエージェント時代の人事の教科書』。

著書:AIエージェント時代の人事の教科書

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